二兎を追うものは二兎を得る?


会社始まって以来の関東進出に際し、愛人本部長がめでたくその店長の座を獲得。
しかし、ショップははるか埼玉のはて。
社長とは、40を越えたこの齢になって“遠距離恋愛”になってしまうのか???


前回のいきさつのあと、ある日の朝礼で社長はいいました。
「みなさんもご存じのとおり、わが直営店がこのたび埼玉県××市へ出店の運びとなった。
そして、新店の店長であるこの本部長が、オープン準備に際し、来週からオープンまでの約2ケ月、××市へ出向いてもらうことになった。ご苦労なことである。みなも、協力して・・・・・」
おお!とうとう、社長は愛人を手放すのか??と、一同(内心)どよめきたったが、続く社長のことばは、想像をはるかにこえたものだった。
「とはいっても、本部長もいろいろと本社での仕事もありますから、転勤ではなく、オープンが落ち着くまでの長期出張ということで・・・・」

・・・社長は、愛人を店長にして、なおかつ手元に置く最良の方法を思いついたのです。それは、なんと、前代未聞の「店長のデリバリー」!!!さすが一国一城のあるじ、腐っても鯛、そのアイデアの奇抜さには脱帽です!!
この時の朝礼では、おそらく社員一同、顔に「ざけんなよ!」とかいてあったハズです。



この一件、わたしたちは、直属の部下として、さらに詳しく知ることになりました。
なんと、社長は2ケ月ものあいだ、本部長を埼玉ショップのちかくでホテル住まいをさせることにしたのです。宿泊代も交通費もすべて会社もち。しかも、毎日取締役クラスの出張手当までつくという下にも置かぬ扱い!

さらに、本部長の出張騒ぎは、全額会社負担だったにも関わらず、正式に埼玉ショップに転勤辞令がおりた女子社員の引っ越し費用は、おどろくことに全額自己負担だったのです。
さすがにこれにはどんな社員も、いい顔はしませんでした。(しかし、表だって異議を唱えるものはだれもいませんでした。ワンマン経営の悲しさですね〜)

夏すぎからあぶない、あぶないといわれ続けた会社の経済状況のなかで、よくそんなムダ金がでてくるもんです。ホント、おそれいりました。



さらに、このふたり、長期出張すら、恋のスパイス(!)として使います。あと数日で愛する本部長は遠い遠い「埼玉の星」になってしまうのです。いやが上にも燃え上がる恋の炎。社長は昼夜を分かたず、本部長と行動をともにします。
 ある時など、新ショップで扱う商品を選ぶ、などともっともそうな理由をつけ、ふたりして船場の衣料問屋に、デートよろしくでかけます。それだけならいいのですが、そのあと、ウチの船場担当の営業宛に、一本の電話がかかってきました。
「もしもし?××××さん?船場の◯◯やけど。
 おたくの社長と本部長、あれなんですのん?
 ふたりそろって、いちゃつきながら
 本部長さんの下着選んでいかはりましたけど!」
・・・・・その時の営業マンは、穴があったら電話のにでも入りたかったそうです。
ちなみにその時社長が選んだ下着は、黒だったとかそうでなかったとか。



さて、そんなこんなで、いよいよ本部長が旅立つ日がやってきました。社長は熱く熱く本部長を激励し、会社からタクシーで送り出します。
そんな社長とはうって変わって、社員一同、憎らしいほど清々しい笑顔で送り出したのはいうまでもないでしょう。
 さあ、鬼の居ぬ間の洗濯、とばかり羽を伸ばそうとしていた、私たち元・販売促進部のメンバー。おりから仕事なんかとっくにヒマになっていたので、このさい転職活動しちゃおうか、などの冗談まで飛び出していたのですが・・・・。しかし、この束の間の平和は一本の電話でやぶられたのです。
むろん電話の主は埼玉であることはいうまでもありません。
「オープンに向けて人手が全然たりないのー
 特にディスプレイとか。
 ほら、そういうのって、
 やっぱりプロじゃないとダメみたいー。」



なんと、この電話いっぽんで、販促部のメンバー4人全員の「豪華・埼玉県長期出張一週間の旅」が決定してしまいました。
信じられません。いっぺんに4人も、ホテルに一週間もです。決定を下したのは、愛人のおねだりに弱い社長です。

「いや、本部長と販売員だけでは女手だけで、
 なにかと〜な?不便だから、
 販促の人間で、ひとおりディスプレイとかな、
 してきてほしいんや。
 とりあえず、オープン前後手伝うということで、
 一週間な。」

 ・・・だいたいからして、本部長が自分の部下を「プロ」なんてヨイショする時にロクなことがあったためしがありません。
 しかし、本当にそんなに人手がたりないのでしょうか???いくらオープン前とはいえ、ショップ勤務の社員やバイトさんがすでに出入りしている上に、東京にだって、営業所はあるのです。 仮にショップの人間で手が足りなくっても、要請すれば東京オフィスから人手を出してもらえるはずです。
 いかに決定したこととはいえ、あまりに解せない話に、販促部のリーダーが、同期である、東京オフィスの営業に電話でさぐりをいれてくれました。

「え!本社から4人も出張すんの???
 へぇー。そりゃ、こっちではだれも本部長のいうこと
 まともにきかないからなー。
 最近言うことがメチャクチャなんだもんな。
 『あのパジャマ2牧もってきて』
 『そこの棚、組み立てて』
 なんて雑用ばっかり。
 その度に、営業マンが東京から1時間半もかけて
 埼玉までいかなきゃなんない。
 今では、みんな何かしら用事をつけて
 行けないようにしてるよ。
 今では、あのオバサンのいうこときいてるの
 営業部長だけだよ。」



 なんのことはない、東京の社員に早くも愛想つかされただけなのです。勝手知らぬ土地で、社長の威光も効き目が薄れたため、存分に言うことを聞く子飼いの社員を呼び寄せたかったのです。
 ちなみに、最後まで東京オフィスで本部長に従順な営業部長は、社員旅行の夜、出世目当てに本部長と寝たという噂のある「ツワモノ」(バカ?)でした。

このような状態のなか、オープン日をはさんだ、1週間の長期出張日程が組まれました。行く手に待つものは、おそらく思い通りにいかぬ関東に、ものすごぉく苛だっているであろう、愛人本部長。
そのうえ、一週間は本部長と同じくホテル住まいになるわけですが、
「本部長とおなじホテルにはなりたくないです!」
と、訴えたところ、
「バカ!あっちは一泊何万すると、思ってるんだ!
 おまえらヒラは一泊7200円だ!」
と、リーダーに一喝されてしまいました。
当時、ヒラ社員の出張宿泊費は一泊7200円。リーダー職でやっと1万円だったのです。
けど、ヒラって・・・ヒラって私と先輩だけなんですよ!しかも二人とも嫁入り前の女子社員!変に安い宿なんかに泊まって、なにかあったらどうするんですか〜!!!
しかし、ヒラの悲しい叫びはだれにもくみ取られることなく、消えて言ったのでありました。


とうとう、愛人本部長の城へ乗り込むことになった販売促進部。
一週間の過酷な出張から、生きてふたたび関西の土をふめるのか???



今日のひとこと:
社長のステイタス・・・
それは愛人に店をもたすこと。
(しかも社費で)








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