さよなら社長、さよなら本部長


緊迫の瞬間を通過すると、各々の胸に浮かび来るのは・・・・そう。退職金のことです。
この会社の場合、勤続3年目以上でないと退職金はでません。入社1年弱の私は、普通ならば出るはずもありません。しかし、周りの人々は、「場合が場合だからでるんじゃないのか??」と、いいます。
いちおう辞表は出したといえ、書類上の退職理由は、輝くばかりの「会社都合により」となっております。ですから、詫びの意味も含めて出るんじゃないのか??と、いう話でもりあがりました。
まぁ、潰れかけてる会社ですから、期待はもてませんけど・・・



退職金は、その日の退社時間間際に、一人ずつ社長に最後の挨拶をしにいったときに渡される段取りになっていました。
上のクラスの人から順番に、社長室に参上し、最後の個別の挨拶と、退職金を頂いて退社いたします。
さっそく5時30分ごろ、社長室にむかいました。

社長室に参上すると、まず、退職挨拶の順番待ちで、廊下に列が出来ていました。(なんせ、多いからね・・・)役職順に、先に挨拶をした人から呼び出しが出て、次の番の人がドアの向こうに消えていきます。 帰ってくるときには手には薄い封筒が!
「あ!退職金が出ている!!」
喜びに小躍りしているうちに、まずリーダーが呼ばれ、社長と最後のお別れ(?)に向かいました。
続いて、チーフ。二人が帰ってくると、いよいよ私の番。今か今かとまっていましたが、まったく呼ばれる気配がありません。やっぱヒラだから最後なんでしょうか?



待っているあいだに、リーダーとチーフが封筒の中身を確かめ始めました。結果は・・・・
「おい、おまえいくらだった?」
「・・・・・これだけです・・・」
「・・・俺も・・・・」
この会話からお分かりでしょう。子供のこづかい程度でした。二人は、さっそくそのお金を背広の内ポケットに仕舞い込み、封筒を始末しにかかりました。
「これだけの金額だったら、出て無いのも同じ。
 奥さんには出て無かったといっておく。」
つまり、ヘソクってしまったんです。彼等が続けていうには「男が明細の無い金をもらっていたら、少なくとも1、2枚は抜いているはず。」だ、そうです。全国の奥様、覚えておくべし!ですね。




さて、こんなことをしているうちに、どんどん最後の挨拶が終了していきます。
それでも、私の名前が呼ばれないので、ちょっと焦ってきました。周りを見ると、ほとんどの人が帰っていきます。
「ひょっとして・・・忘れてるんでは???
 私の退職金は、やっぱり、出ないんだぁ〜〜〜!!!」
意を決して、自ら社長の元に赴くことにしました



社長室のドアをノックすると、中からは以前と変わらず慇懃な声で返事が返ってきました。
おそるおそる入室し、社長の顔を見ると、一瞬
「お、何だこいつ。何しにきた?
と、いう表情がよぎりました。くそ〜やっぱり忘れてたのか!
「あの、そろそろ・・・ですので、ご挨拶に参りました・・・」
「あ〜そうか、そうか・・・
 ほんとにねぇ、せっかく入っていただいたのにねぇ、
 いや、こんなことになってしまって・・・・
 いゃいや・・・がんばってください。」
私は内心、退職金はいつ出るかいつ出るか、その事ばかりをうかがっていたのですが、社長には、まったくそんな素振りは見受けられません。
そんな雰囲気を察知したのか、社長はとっさに話題をかえます。
「・・・と、これからのことは、もうきまりましたか?」
きました。ここは捨て身のアタックで
「いきなりリストラされて、ほおりだされて
 決まってるはずないじゃないですか!!」
と、食ってかかるのも、最後の逆襲なんでしょうが、それもそれでハラが立つので、
「ええ、もう決まっております。」
と、いささか尊大な態度で告げると、社長、ちょっとほっとした面持ちで
「それはよかった。やはり優秀な方はちがう」
と、こんどはおだてにかかります。これはどうあっても私の退職金は出さないつもりのようです。1年生社員をおだてるくらいなら、出すものだしてください、社長。
おまけに、こんな社長を見るようになるなんて・・・・一時はトップとして仰いだこともあるだけに、ちょっと悲しくなり、早急に社長に別れをつげました。
「社長こそ、お体に気をつけてがんばってください。」



とにかく、私と社長の最後の面談は、こうして終わりました。
次に、あの、本部長にお別れを言いにいきます。
社長室のワンフロア下にある、本部長のエリアに赴くと、本部長がなにやら残業をしていました。一通りの挨拶をのべると、本部長も、本当に残念、せっかくうちに入社してくれたのに、でも私たちも先の保証があるとはいえない・・・などと、これまた通り一遍のお言葉をかけてくれました。
そして、最後に、ちょっとにっこりほほえむと、
「はい。これ。今までごくろうさまでした。」
と、いって、ちいさな包みを差し出したのです。予期せぬプレゼントに、驚きつつもお礼をのべ、退出してくると、部屋の外にはわたしの成り行きを気にしていたリーダーとチーフが待っていました。



ふと、見るとリーダーとチーフの手にも同じ包が。
「おまえももらったのか。コレを」
「なんですか?これ。」
さきほど、チーフが開けてみたところ、中から出てきたのはなんと、うちの埼玉ショップで死ぬほど売れ残っていたキャラクターのマグカップだったのです!(なぜパジャマ屋にコップがあったのか?まぁ、つっこまんといて〜)
「俺なんか25の男で、結婚して子供もいるのに、
 マグカップかよ〜」
「リーダーは、退職金が出たからまだましですよ!
 私なんか、退職金が出なかったから、
 これだけなんですよ〜!!」
「それも、ショップの売れ残りのやつ・・・・」
「おまえ、やるよ。
 いりませんよ〜これ以上!」
・・・・・まったく、本部長らしい気の使い方ですね。



こうして、私たち3人はぺらぺらの退職金と、キャラクターのマグカップを手に、そっと会社を後にしました。特に、私なんかは1年弱勤めて手元に残ったのはこのマグカップだけ。悲しすぎる〜
私も、1からスタートの切り直しです。リーダーもチーフも明日からは、求職の日々が待っています。
そして、これからは、もう逢うことも無い(と思う)社長と、本部長。彼等どんな日々がまっているのでしょうか・・・・・



それから、約3ケ月後。
私は新しい会社で、新入社員の日課として、新聞の切り抜きをしていました。
いつもは関連のあるページだけをバリバリめくっていくのですが、その日は何となく経済面をめくっていました。すると、そこに、忘れられない名前を見つけたのです。
××××が和議を申請
負債総額42億円

アパレルメーカーの××××(**市、****社長、資本金九千六百万円)は十二日、**地裁に和議申請し、事実上倒産した。民間信用調査期間によると負債総額は約四十二億円。
同社の設立は八三年。九十四年には五十七億の売上があったが、過大な設備投資による金利負担と同業者との価格競争で資金繰りが悪化していた。
そうです。その記事は、かつて私がいた、社長がいた、愛人がいた、あの会社の倒産を告げるものだったのです。
ここまでお付き合い下さったみなさんなら、この記事の実情が何をいわんとしているのか、手にとるようにお分かりになると思います。

かつて栄耀栄華を誇った会社でしたが、こうなってしまうと信用丸潰れ。記事のとおり、事実上の倒産と相成ったわけです。
あ〜あ。会社潰れてしもたがな!




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